クワガタムシやカブトムシは、成虫になってからは大きくなりません。幼虫の間にどれだけ大きくなるかで羽化した際のサイズが変わります。従いまして、幼虫の期間にどれだけ栄養価の高い餌を与え、太らせられるかが、成虫になった時のサイズを決定付けます。
カブトムシの幼虫飼育は簡単で、ここではその飼い方を、ぼくの経験を元に語っていきたいと思います。
カブトムシの幼虫の入手方法ですが、成虫を交尾させて産ませる場合と、カブトムシの幼虫そのものを購入する・もらう場合があります。成虫から採れた幼虫は愛着がありますが、幼虫飼育から始めたい方は、購入で良いと思います。成虫よりかなり安く入手できるはずです。
ちなみに、カブトムシとクワガタムシの幼虫は似ていますが、よく見れば簡単に判別ができます。
写真の左側がカブトムシ、右側がクワガタムシです。
カブトムシの幼虫には、成虫に与える昆虫ゼリーや果物などの「餌」を別途与える必要はありません。棲み処自体が餌になります。彼らにとってはお菓子の家みたいなものですね(笑)と言うことは、当然棲み処を幼虫が食べられるものにしてあげなくてはなりません。成虫のようにどんな棲み処でも良いというわけにはいきません。
冒頭でも述べましたが、カブトムシは成虫になってからは大きくなりません。幼虫の期間にどれだけ大きくなれるかで成虫になった時の大きさは変わってきます。従いまして、大きなカブトムシを飼育したければ、幼虫の期間にカブトムシにとって栄養のある餌を与え、できるだけ大きくしなければなりません。
カブトムシの幼虫は専らマットで飼育をします。「マット」とは、木を細かく粉砕したもののことで、それを発酵させたものを「発酵マット」と呼んでいます。カブトムシやクワガタムシの幼虫は広葉樹(クヌギやナラ等)でしか育ちませんので、「マット」は狭義に「広葉樹マット」を示していることがほとんどです。
成虫の管理飼育用等に針葉樹も使用されますが、広葉樹のマットに対して「針葉樹マット」と呼ばれています。
成虫になった時の大きさを気にしないのであれば、ホームセンターで売っている安価な未発酵マットで充分羽化までさせることができます。下記のマットはクヌギやナラ等の広葉樹を単に粉砕しただけ(粉砕しただけということは無いかもしれませんが)のもので、発酵マットに対して「未発酵マット」と呼ばれています。
<未発酵マットの例>
※最近はバンブーマットも話題を呼んでいます。竹は「イネ科」ですので“樹“ではありませんが、発酵させた竹のマットであればカブトムシの幼虫も育ちます。
【用意するもの】
①マット
②水(水分調整がしてあるマットであれば不要)
③飼育ケース
④すりこぎ棒(もしくは類似のもの)
⑤キッチンペーパーや新聞紙
①マット
マットは先ほどご紹介した市販されている未発酵マットで充分ですが、大きい成虫を羽化させたいのであれば、発酵マットで飼育をします。
発酵マットはショップによって独自の製法があるため金額はピンキリです。また、ショップの「発酵マット」は「カブトムシに適した発酵具合のもの」、「クワガタムシに適した発酵具合のもの」、それ以上に「特定の種類に適した発酵マット」など様々ですので、飼育する幼虫に合わせて選別して下さい。
いずれにしても未発酵のものよりは確実に高価ですので、未発酵マットから発酵マットを自分で作る方法もあります。
クワガタも飼育している場合は、さらに経済的な方法があります。カブトムシは、クワガタムシの幼虫を飼育した後の「廃菌糸」や「廃マット」でも充分に育ちます。ぼくの場合ですが、オオクワガタを年間150~200頭を飼育しており、3~4ヶ月ごとに幼虫の餌(菌糸やマット)を交換しています。
その際に出る、廃菌糸や廃マットは、それぞれ45ℓ程度の大きなゴミ袋に入れて保管しております(カブトムシが充分に育つので、廃棄するなんてとんでもない!)。
基本的には、廃マットがメインで、そこに廃菌糸を20~30%の割合で足すというイメージです。クワガタが一度消化したマットは、カブトムシにとってはさらに消化するのにちょうど良いと言われています(真偽のほどは不明です)。これまで問題無く無事に羽化しているので、クワガタを飼育している人は一度挑戦してみて下さい。
※バンブーマットについてはこのページの最後【補足1】にて少し記載しております。
②水
購入した発酵マットは水分調整をすでにしてくれているものも多いですが、自身で水分を含ませなければならない場合は、その商品に指示された分量で加水します。ぼくは水溶性のカルキ抜きを入れ、水道水の塩素を飛ばしてから使用しています(カルキ抜きはぼくの願掛けで、特に必須というわけではありません)。
水分量の目安でよく言われるのが、「軽く握ってマットがダマになり、指で軽く押すとボロッと崩れる程度」です。ギュッと握った時に水が滴り落ちると水分過多と言えます。自作の発酵マットはすでに水分を含んでいることになりますので、そのまま使用して大丈夫です。
③飼育ケース
カブトムシの幼虫はクワガタの幼虫とは異なり、多頭飼育が可能です。たくさん飼育する場合は、大きめの衣装ケースでまとめて飼育し、少数飼育の場合は、1頭1頭ケースに入れて飼育します。
そのケースですが、多頭飼育する場合はその数によって様々ですが、ぼくは上掲写真のような衣装ケースに20頭ずつ飼育しています。
マットの量は写真のように6割程度入れておけば大丈夫です。
※写真では日光に当たっていますが、ケース飼育での直射日光は厳禁です!!!
1頭1頭飼育する場合のケースですが、はっきり言って市販の昆虫用ケースは不要です。高いです。今は100均で充分すぎるほどのものが買えます。カブトムシの幼虫であれば、大きなオスでも1,000ccで充分羽化まで持っていけます(もちろん餌交換は必要です)。メスや小さめのオスであれば800ccでも羽化します。と言うより、幼虫はケースが小さければ大きくなりません。環境に適したサイズまでの成長で止めるようです。大きな個体を作出したいのであれば、大きめのケースで飼育しましょう。
※幼虫の成長度合いは餌や環境によって大きく変化しますので、大きいケースに入れたからと言って必ずしも大きくなるわけではありません。
カブトムシは縦になって蛹になるため、横長ではなく縦長のケースを購入しましょう(クワガタは横に蛹になりますので、横長のケースを使用します)。
100均のケースは本当にたくさんあるため、好きなものを選んでOKです。観察を楽しみたいのであればガラスのケース、安全性や重さを考えればプラスティックのケースでしょうか。どちらにしても、空気穴が開けられそうな蓋のものを選んで下さい。
私はアイスピックの先をコンロの火で高温にし、蓋を溶かして小さな空気穴を5~8つほど開けておきます。
※くれぐれも火の取り扱いにはご注意下さい!!
④すりこぎ棒(もしくは類似のもの)
飼育ケースにマットを詰めていきます。飼育ケースにマットを入れて、すりこぎ棒のようなもので軽く押してケース底から順次固めていって下さい。ケースの7~8割ぐらいマットが入ればOKです。あまり入れ過ぎると、幼虫が動き回って蓋を開けてしまったり、ガリガリと噛んだりします。
この4本は若干入れ過ぎです...↓
準備が整えば、幼虫を投入しましょう。上掲写真は3齢幼虫ですので大きいですが、初齢幼虫や2齢幼虫も同じ扱いで大丈夫です。
幼虫を入れる際は、その幼虫がそれまで暮らしていたマットのかけらと、幼虫自身の糞も少し一緒に入れてあげましょう。環境が急に変わりますので、少しでもストレスを抑えてあげたいですね。
次の写真はグラントシロカブトの幼虫ですが、脱皮して3齢幼虫になったばかりで、頭が大きく身体が小さいアンバランスな状態です。
⑤キッチンペーパーや新聞紙
最後の仕上げです。「あとは蓋をするだけ」という段階に来ました。実は、これがとても重要な作業です。カブトムシ飼育やクワガタムシの飼育にはコバエが付き物です。このコバエをシャットアウトしましょう!
ケースと蓋の間にキッチンペーパーや新聞紙を挟み、コバエの侵入を防ぎます。
キッチンペーパーを挟み込む場合、だいたい2層になっているので、私は1層分のみ飼育ケースと蓋の間に挟み込んでいます。酸素がよく通り経済的(笑)、かつコバエの侵入を防ぐことができます。
※2層のままで使用する場合に比べて乾燥はし易くなってしまいます。
マット(餌)の交換ですが、ケースの上部に糞が目立って来た頃を目安にしておこないます。カブトムシの糞は、餌と同じ色でヒマワリの種のような形と大きさをしているのですぐ判ると思います。よく分からない場合は、3~4ヶ月ごとに交換してあげて下さい。写真のようになっていたら遅過ぎます。いじけていますが(?)、幼虫は元気に生きてくれています。
蛹の話題へ移る前に、幼虫のオスメスの判別について記載しておきます。
国産カブトムシの幼虫の雌雄判別には、写真に書き込んだピンクの枠付近の部位(お腹と呼んで良いのでしょうか)を確認するのですが、それはそれはとても小さなサインです。幼虫が「コの字」のままでは見ることができませんので、身体を反らす必要があるのですが、くれぐれも無理のない範囲でお腹を見せてもらって下さい。それから、お腹についたマットはティッシュか何かで取ってあげた方が判別し易いです。また、危険を感じて糞を飛ばしますのでご注意を(笑)。
まず、幼虫のお腹が見えましたら・・・
肛門(写真の赤線部分)のうえのスジを1節目としますと、2節目と3節目の間の中央辺りに緩やかな「Vの字」とその鋭角部分に針で刺した「・」のような凹みが確認できれば♂(オス)です。
「V」と言うより音楽記号の「タイ」のようなカーブです。
※3節目辺りにも大きな「Vの字」が見えますが、それではありません。
同じ写真でその「Vの字」を黄色の〇で囲ってみました。
幼虫が丸くなろうとして見にくいとは思いますが、焦らず気長に幼虫を気遣いながら観察してみて下さい。
「Vの字」部分をアップにしてみました。いかがでしょうか。
針で刺した「・」のような凹みも確認できますでしょうか。
一方、次の写真のように、当該部分に何も確認できなければ♀(メス)と判断して良いかと思います。
最後のマット(餌)交換は4月中旬までには完了させておいて下さい。5月初旬から中旬になると「前蛹」といって、蛹室を作って蛹化の準備をする大事な時期に入ります。蛹室を作るタイミングは環境や個体差によってズレがありますので、3月中に交換しておくと心配がないと思います。
前蛹になる前の予兆は、幼虫の身体全体が黄色くなりますので、すぐに判るかと思います。
一所懸命に蛹室を作る様子を紹介しておきます↓
蛹室を作ってしばらくするとほぼ動かなくなります。死んだわけではありませんので、触らずに放置してあげて下さい。カブトムシの幼虫は死ねば真っ黒になりますので、慌てて出してしまわないようにして下さい。タイミングによってはもう蛹室を作れないこともありますので、羽化不全の原因となってしまいます。
蛹室が完成した後はこげ茶色の液体を吐き出しますので、これが確認できれば蛹化の始まりだと思って下さい。
前蛹の期間はおよそ10日間で、その後に蛹になります。
蛹化が近付くに連れて、前蛹幼虫の背中に「人の眉毛」のような模様が浮き出て来ます。はじめは濃い一対が確認でき、その下に複数の眉毛模様が現れます。
写真は蛹化直前の様子です。眉毛模様が六対確認できます(実際は八対はあると思います)。観察するためにカメラをスタンバイしていたのですが、4時間ほど寝落ちしている間にもう蛹になってしまっていました・・・。
蛹の期間はおよそ25~30日間で、その後に羽化します。脱皮が始まってから内翅を収納するまでは、だいたい5時間です。羽化直前の蛹はかなり濃い茶色で、羽化直後は身体が白く、数日が経過すると我々がよく知るカブトムシ本来の色に落ち着いて来ます。
羽化してもしばらくは地上に出て来ませんが、心配は要りません。
必要な時期が来れば自ら出て来ます。念のために昆虫ゼリーをマットの上に置いてあげて下さい。
冒頭にも少し書きましたが、カブトムシの幼虫飼育において、広葉樹以外の発酵マットで着目できるのが竹の発酵マット、バンブーマットです。通常、元々が竹林に棲息するゴホンヅノカブトやタテヅノカブトの飼育には必須とされてきたものですが、日本のカブトムシでも、“竹林の腐葉土から幼虫がゴロゴロ出て来た“というお話をよく聞きます(そういった映像をアップされている方もいらっしゃいます)。ちょうどバンブーマットを購入する機会がありましたので、我が家の国産カブトムシでも一部バンブーマットにて飼育してみようと思います。
ぼくが購入したのは、バンブーライフ・アグリ様の「発酵竹パウダー飼育マット
カブトムシの飼育床」です。一見すると、カブトムシ用発酵マットのようには黒く無いので、発酵具合が浅いのかな?と思いましたが、このバンブーマット100%でも次の写真のようにどんどん潜って行き、丸1日経過してもケースの底の方でゆったりと快適に過ごしている様子でした。初齢から飼育すれば大きくなるかもしれません。
但し、発酵の浅いバンブーマットはとても乾燥し易いので注意が必要です。頻繁に加水できない場合、幼虫の生育に問題が出ますのでご注意下さい!!
バンブーライフ・アグリ様から、以下のご助言も頂いておりますので、是非ご参考になさって下さい。
『バンブーマットによるカブトムシの飼育方法は、発酵マットの水分調整は自然水を使うのがいいです(雨水でも)。カブトムシの幼虫は、容器の下部に水分調整が十分効いている(マットが水分を多く含み濡れている感じ)箇所やそうでない所(湿っている箇所)を作っておくことで、自分で好みの箇所を選択し移動しながら成長していきます。ですから、いろいろな環境を飼育容器内に作ることが必要と思われます。よって、少し大きめの容器を使用するとマットの交換頻度も減らすことが出来ますし、カブトムシへのストレスも軽減され大きく育ちます。』
カブトムシの幼虫がマット上部に上がって来て潜って行かない時は、酸欠や餌の状態が悪い(フンだらけ)こともありますが、同時に『黒点病』を疑ってみて下さい。その名の通り、幼虫の身体に黒い斑点が現れている病気です。
この病気には明確な原因・治療法はありませんが、外傷や感染、遺伝などに起因すると言われています。羽化できるかどうかはその個体の体力や免疫力に因りますが、死に至ることも多いです。
※上掲写真のうち終齢幼虫の個体(国産カブトムシ)は無事に正常に羽化しましたが、2齢幼虫の個体(ゴホンヅノカブト)は亡くなってしまいました。
黒点病は伝染しますので、とりあえず罹患した個体は単独で飼育し、他のカブトムシを守ってあげて下さい。
※絶対的な順守事項※
一度飼育した昆虫は絶対に自然に放つことはせず(国産・外国産に拘わらず!)、天寿を全うするまで責任を持って育てて下さい。もしくは、里親を探して下さい。放虫は法律に抵触します。