グラントシロカブト(Dynastes granti)は“ホワイトヘラクレス”の異名を持つ、その名の通り白いカブトムシで、日本でもとても人気があります。
大きさは日本のカブトムシとほぼ同じぐらい(若干小さめ)です。
アメリカのアリゾナ州、ユタ州、ニューメキシコ州に分布しています。個体によって茶色の斑点模様が様々ですが、この斑点が極端に少ない個体は「スーパーホワイト個体」と呼ばれており、さらに人気が高いです。但し、次の条件で赤褐色に変色します。
(1)羽化後2~3週間
(2)湿度が高い場所に居る時
(3)寿命が近付いて来た時
グラントシロカブトの仲間に、ティティウスシロカブト、ヒルスシロカブト等が居ますが、体色はグラントシロカブトよりも黄色が強く、グラントシロカブトがまさに「シロカブト」の名を冠するに相応しいと言えるでしょう。
グラントシロカブトは外国産の昆虫ですが、ある程度の温度管理ができれば飼育も容易です。但し、卵から孵化するまでに3ヶ月~8ヶ月を要するため、この点においては飼育を躊躇する理由になり得ます。
成虫の寿命は日本のカブトムシと大差ありません。
グラントシロカブトの成虫飼育は、飼育場所の温度を管理できれば、あとは乾燥を防いで成虫が隠れる場所と餌を与えてあげれば特別注意すべきことはありません。温度管理をしてあげる必要があることを除けば、基本的なグラントシロカブトの飼い方は国産カブトムシと同じ方法で大丈夫です。
【用意するもの】
①生体
②飼育ケース
③マット
④餌
⑤成虫の隠れ場所
⑥キッチンペーパーや新聞紙
⑦家族の同意
①生体
これを飼うためなので、これがいないと始まらない(笑)昆虫ショップ、ネットショップ、ネットオークションなど、比較的容易に入手できます。
ネットオークションでの相場は、オス・メスのペアで4,000円~6,000円程度だと思います(昆虫ショップだともう少し高額な印象です)。
基本的にオス・メスのペアで飼育することをオススメします。飼育ケースの大きさ次第ですが、メスは複数頭一緒でもOKです。但し、オスは1頭にしておいて下さい。オス同士は必ずケンカをします。死に至る場合もありますが、それを免れたとしても、身体中に小さな穴がたくさんできてしまいます。寿命が縮まりますし、第一に傷だらけではかわいそうなので、1つのケースに必ずオスは1頭にしておいて下さい。
②飼育ケース
虫カゴは推奨しません。通気が良過ぎるのですぐに乾燥してしまいますし、値段が高いです。100均のケースで充分です。しっかりとフタが閉まるプラスティック等のケースであれば何でもOKです。当然、密封はNGです。
100均のケースは本当にたくさんあるため、好きなものを選んでOKです。観察を楽しみたいのであればガラスや透明のケース、安全性や軽さを考えればプラスティックのケースでしょうか。どちらにしても、空気穴が開けられそうな蓋のものを選んで下さい。
ぼくはアイスピックの先をコンロの火で高温にし、蓋を溶かして小さな空気穴を5~8つほど開けておきます。
※これぐれも火の取り扱いにはご注意下さい!!
ぼくの場合は、義母が建設業をしているので、業務で出た廃材(ヒノキを細かくしたもの(写真参照)を譲り受けて使用しています。
いずれにしても、ケースに2~3cmの深さぐらい入れてあげて下さい。
④餌
市販の昆虫ゼリーでOKです。少しでも長生きしてもらうなら、ホームセンターやスーパーで安く買えるものだけでなく、少し高めで売っているゼリーも与えて下さい。バナナ等の果物やヨーグルトも良いですが、すぐに腐るので不衛生です。
ぼくの場合は、グラントシロカブト成虫1頭に対して写真のゼリー(17gワイド)を2個与えています(カッターナイフで十字に切れ目を入れて)。ゼリーがほとんど無くなったと感じたら交換しています。だいたい3日に1回ぐらいのペースで交換していますが、時期や個体にも因ります。
⑤成虫の隠れ場所
カブトムシも天敵から身を守るため、本能的にすぐに隠れようとします。写真のように、木の皮を剥いだようなものをマットの上に置いてあげて下さい。なくても死にはしませんが、ストレス回避や転倒した時のためにも入れてあげて下さい。カブトムシは夜間に行動するので、気が付いたら仰向けで力尽きて死んでいた・・・なんてことにならないようにして下さい。
↓こういうことにならないように木片を入れてあげましょう。
⑥キッチンペーパーや新聞紙
ケースとフタの間に挟み込んで下さい。コバエの侵入防止と乾燥防止に非常に役立ちます。これが一番重要です。なぜなら、コバエはマットに卵を産み、とてつもない早さで繁殖します。そうなると、飼育についての家族の同意はもう絶対に得られません。清潔に飼育をするための必需品と言えます。
キッチンペーパーを挟み込む場合、だいたい2層になっているので、私は1層分のみ飼育ケースと蓋の間に挟み込んでいます。酸素がよく通り経済的(笑)、かつコバエなどの侵入を防ぐことができます。
⑦家族の同意
重要項目です。家族、特に奥さんやお母さん、お姉さん、妹さん、ただでさえ嫌いな人が多い昆虫です。コバエが家中を舞ったり餌が腐って不衛生となるなら、絶対に許可してくれません。そのためにも、飼育はきちんと衛生的に行われることを説明し、そして実践しましょう。上記の④餌と⑥キッチンペーパーや新聞紙は大切です!!!
①メスに産卵させる
グラントシロカブトの成虫をペアで飼育し、メスに卵を産ませて幼虫を採る方法です。上記と基本的には同じですが、マットの量を増やす必要があります。
写真はグラントシロカブトの交尾の様子です。
産卵セットを組んで数日後、ケースの底や側面に卵が見えるようになりますので、オスを取り出してメスのみにし、1ヶ月程度はそのまま産卵を継続させます。
「1.成虫のみを飼育する」で準備したケースよりも大きなケースを用意します。ぼくは大ケース以上の大きさがあるものを使用しますが、リンクの商品は高いので買いません。ホームセンターで売っている、安価な衣装ケースで代用しています。
オスとメスを一緒に入れます(♂1♀1がベスト)が、マットの量をケースの7~8割程度入れる必要があります(下図のようなイメージです)。その際、底の3cmほどはギュッと圧して、残りはフワッと敷いて下さい。
カブトムシのメスはマットそのものに産卵します。
※グラントシロカブトに産卵させる場合のマットは、必ず発酵済の広葉樹マットを使用します。
※ケースが小さ過ぎると7~8割程度入れても深さが足りない場合がありますので、少し大きめのケースをご用意下さい。
1ヶ月が経過するとケースをひっくり返します。ケースをひっくり返すのは晴れの日に家の外でしましょう!但し、真夏は直射日光で幼虫が弱ったりしてしまうので、卵は速やかにケースへ移して室内へ入れて下さい。
1頭のメスから20~30個ほどの卵を得ることができるはずです。日本のカブトムシとは異なり、この段階ではほとんど幼虫は採れないものと思っていて下さい。
写真で判る通り、卵よりも一回り大きな“卵室”と呼ばれる部屋の中に卵は産み付けられています。非常に綺麗な空洞で、いつも自然のすごさ・本能のすごさを感じさせられます。
これを2~3回繰り返すことで、1♀から40~90個ほどの卵が採れれば大成功です。グラントシロカブトは卵の期間が非常に長いため、ある程度の数が孵化までに腐ってしまいます。感覚的ですが、5~6個のうち1個は孵化できないと思っておいて良いかもしれません。
②卵を孵化させる
グラントシロカブトの飼育でおそらく一番根気が要るのが、孵化させることかもしれません。何しろ3ヶ月~8ヶ月は卵のままなのです。たまに1ヶ月ほどで孵化する個体もおり、実はよく分からない種でもあります。
ちなみに、参考までに当方の飼育データから、孵化日と羽化日の例を記載してみます。いずれも2019年夏に採卵した個体です。
【孵化が最も早かった個体】
(♂)2019年09月29日孵化⇒2021年7月上旬羽化
(♀)2019年10月14日孵化⇒2021年6月26日羽化
【孵化が最も遅かった個体】
(♂)2020年03月25日孵化⇒2021年7月14日羽化
(♀)2020年04月08日孵化⇒2021年7月15日羽化
【幼虫期間が特に長かった個体】
(♀)2020年02月27日孵化⇒2022年04月16日羽化
※無事に羽化した65頭のうち、この1頭のみが実に丸2年幼虫でした。
上記のように、孵化した時期に拘わらず同時期に羽化していることは面白いですね。とは言え、卵の期間が長いのは事実ですので、ブリーダーの間では強制的に孵化させることも試みられています。
一旦、ここでは自然に孵化させるための管理方法をご紹介します。
ぼくは卵の管理に100均で販売されている小物ケース(アクセサリーケース?)を利用します。左が30個用、右が42個用です。
最初に、採った卵をケースの各部屋に1個ずつ入れます。
その上から、産卵セットで使用していたマットを被せます(産卵セットで使用していたマットでなくても、発酵済の広葉樹マットならOKです)。
卵とマットを入れた小物ケースを底から見て、きちんと全ての卵が見えていることが重要です。いつ孵化するか判らない種であるため、状態を確認できる必要があります。マットに埋もれて卵が見えない場合は、そこだけもう一度入れ直して下さい。
小物ケースの蓋を閉め、孵化するまでは乾燥に注意して保管しておいて下さい。特に、小物ケース内の外側の各部屋は乾燥し易いため、定期的に霧吹きで加水することを忘れないようにしましょう。
それぞれの卵は数ヶ月後に順次孵化し始めますが、早い個体は1~2ヶ月で孵化します。孵化すれば小物ケースの底に初齢幼虫が確認できます(次の動画ご参照)。
孵化した幼虫は日本のカブトムシとほぼ同じ大きさです。非常に小さいので、小物ケースから取り出す際は、細心の注意を払うようにして下さい。
無精卵だったり生命力が弱い卵は腐ってしまいます。下記に掲載した写真のうち、左は後々無事に孵化した卵、中央と右は腐ってしまった卵です。
ぼくのスマホカメラが非常に画質が悪く、写真では判りづらいのですが、中央の写真の卵は結構黒ずんでおり、右の写真の卵は凹んでおりました。健康な卵は白色や黄色の綺麗な球体です。孵化の直前は幼虫の身体や頭が透けて見えます。
グラントシロカブトは孵化のタイミングがなかなか計れないので、その様子を動画に収めることができておりません。参考までに他のカブトムシの孵化の様子を以下に掲載しておきます。
※絶対的な順守事項※
一度飼育した昆虫は絶対に自然に放つことはせず(国産・外国産に拘わらず!)、天寿を全うするまで責任を持って育てて下さい。もしくは、里親を探して下さい。放虫は法律に抵触します。